最新判例の読み方
ニュースで話題の最高裁判例

平成25年12月10日に出された最高裁判所の決定がニュースになっていました。

性同一性障害のため女性から性別を変更した男性(31)と妻が、第三者の精子提供による人工授精で妻が産んだ長男(4)の戸籍上の父親を男性と認めるよう求めた家事審判で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は10日付で、申し立てを却下した一、二審の判断を覆し、父親と認める決定をした。

(時事ドットコム「性別変更の男性、「父」認定=民法の「嫡出推定」適用-戸籍めぐり初判断・最高裁」より 2013/12/11 17:06)

ニュース自体はご覧になった方も多いかと思いますが、試験対策上これをどのように扱うのかについてご説明いたします。なお、最後の方の「コラム的なもの」は試験対策上は必要ない余談です。


試験に出る?

話題の最新判例は試験に出る可能性があります。

ニュースで話題の最新判例は時事として問うべき価値のあるものですから、とくに裁判のニュースについては行政書士を目指すものが無関心ではいけない、ということなのでしょう。

ただし、試験直前(9月以降ぐらい)の最新判例については、問題作成に間に合わないため出ない(翌年の最新判例扱い)ように思われます。

試験対策としては、公式を考え(法律的アプローチ)、何が問題で、何故社会的問題となったか(時事的アプローチ)について知っておけば十分であると言えるでしょう。


まず公式を考える

さて、まず公式を考えましょう。条文は民法772条1項です。

 民法第772条1項  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

 ※「推定」とは、裁判上で逆の事実が立証されない限り法律上そう扱われる、という意味です。

つまり、夫の子と推定されるかどうかは「法律上の婚姻関係があるか」「その婚姻中の懐胎(=妊娠)か」の2つの要件により判断されるわけです。明確な要件ですね。

民法772条1項の要件は明確なので、事実をあてはめていきましょう。
 1.事案の男女は法律上の婚姻関係にあります
 2.事案の懐胎は婚姻中のものです

公式の出した答えは「夫の子と推定される」ということになります。


今回の事件の本当の問題は!?
問題の所在

今回の事案が問題となった背景には以下のような事実があります。

 1.夫は婚姻前、性同一性障害で戸籍上の性別を「女→男」と変更した
 2.妻は夫以外の男性から精子提供を受けて人工授精により懐胎、出産した
 3.役所は夫の子でないことが明らかであるとして、父の欄を空白で戸籍記載した
 4.地裁・高裁は、父の欄への夫名の記載を否定する判断をしていた

問題の根本は、夫に生殖能力がなく生物学上の父とはなり得ないことから、そもそも772条1項は適用されないのではないかということです。

772条1項が適用されれば、上で見たように「夫の子と推定される」からです。


何故社会的問題となったか

この事件は、性同一性障害で戸籍上の性別を「女→男」と変更した者は結婚はできても父の推定は受けられないのか、が問題です。言い換えれば、男(だけど肉体的には女)という区別、法的取り扱いは正当なのかという話なのです。

これについて、最高裁判所は以下のように述べました。

妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないというべきである。

最高裁判所の考え方・思考プロセスを整理しておいてください。

【応用】「病気により生殖能力がない夫」の場合、772条1項で父子関係は推定されるでしょうか?
    → 推定される(判例の事案より772条が適用しやすいと判断できればOKです)[反転してください]


納得いかない方への補足(コラム的なもの)
私の想像する“納得いかない理由”

今回の最高裁決定が納得いかない方は、最判昭和44年5月29日をご存知だったのではないでしょうか。

夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかな場合、父の推定を受けない(最判昭和44年5月29日)

そして最判昭和44年5月29日のいう「性的関係を持つ機会がなかったことが明らかな場合」に今回の事案は該当すると考えているのではないかと思います。現に地裁・高裁はそうでした。

感情論をそれっぽく強弁して性同一性障害者への大岡裁きをしたのではないのか、生物学上父になれないのは明白なのに…、といったところでしょうか。


最判昭和44年5月29日の「隠れた要件」

最判昭和44年5月29日の事情からすると、文意としては「夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかな場合、(推定により父子としての責任を負わせるのはかわいそうだから772条1項は適用されず)父の推定を受けない」となります。

もし夫が望むなら父子としての責任を負っても全然かわいそうじゃないですが、夫は訴訟までしており父子関係を望まない意思は明白なので、生物学的要件についてのみ述べているのです。

「裏技」的に言うと、772条1項が適用されるかどうかは、懐胎が「性的関係を持つ機会がなかったことが明らか」で「夫が望まない意思が明白」かどうかによる。なお、夫自ら訴訟で争っていれば「望まない意思は明白」といえる。という公式です。(※この公式は行政書士試験では出ません!)


今回は“望まれた子”

法は、夫が子の推定を否定する場合として「嫡出否認の訴え(775条)」を予定しています。他方、訴えを起こさず「生物学的には他人の子と分かっていても、戸籍上はわが子とする」という選択肢も夫には残ります。

つまりここでも、生物学的に夫の子でなくとも、夫が望むなら戸籍上の実子となるのです。
法が「夫婦間の絆」と「親としての決断」を強く信じていることのあらわれです。

今回、子は人工授精の結果、夫婦に望まれて生まれてきました。そして夫にはわが子として育てる意志があります。
決して大岡裁きなどではなく、法制度と家族のあり方を踏まえ772条1項が適用される場面だと再確認したものです。



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