不定期連載「空き家対策」
- 空き家対策って何?
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この先深刻化が予想される「空き家問題」
平成25年住宅・土地統計調査(総務省統計局)、平成26年の空家法(正式には「空家等対策の推進に関する特別措置法」)を契機に「空き家問題」「空き家対策」「空き家活用」といった言葉が飛び交い、様々な自治体・団体・業界が空き家に関する取組みを進めています。
既に一定の期間が経過していますが、必ずしも状況が改善したとは言えないでしょう。むしろ、空き家問題の更なる深刻化が迫る中、正しい理解と適切な対策実施を迫られています。裏を返せば、これまでの「空き家問題」の認識や「空き家対策」には適切でない部分があったと認めざるを得ないのです。
空き家対策=空き家問題を解消すること
当たり前のようですが、とても大切です。空家法を読み違えて「空き家活用」を「(広い意味での)空き家対策」に含めて考え、空き家問題の解消に向けられる活動を「(狭い意味での)空き家対策」と考える人は意外と多いようです。
空き家対策と空き家活用は区別しましょう。空き家対策を考える上では、まず「空き家問題」について知らなければなりません。さらには、空き家が何を指しているのか、全ての空き家が空き家問題を生み出しているのか、などについて順を追って整理していく必要があるでしょう。
- 「空家」と「空き家」、何が違うの?
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空家法における空家
空家法2条1項本文に定義があります。
空家法2条1項本文
この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。「常態」については、総務省・国交省の基本指針(正式には「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」)に示されています。
基本指針 一-3 空家等の実態把握
「居住その他の使用がなされていない」ことが「常態である」とは、建築物等が長期間にわたって使用されていない状態をいい、例えば概ね年間を通して建築物等の使用実績がないことは1つの基準となると考えられる。この2つを併せて読むと空家法上の「空家等」とは、1年以上居住実態のない建物等ということになります。
空き家≒条例上の空き家
「き」のない「空家」は空家法上の空家、「き」のある「空き家」は条例上の空き家、という認識でおおよそ問題ありません。
おおよそ、というのは明確な定義はなく、事実上そのように理解・運用されているからということです。条例が制定されていない自治体や、条例が空家法の定義そのままの場合、両者に実質的な差はないということになります。
- 空家法の立法事実(社会問題としての「空き家問題」)
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空き家問題=管理不全空き家による近所迷惑
空家法1条では、立法事実である社会問題「空き家問題」について規定があります。
空家法1条
この法律は、適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空家等の活用を促進するため、空家等に関する施策に関し、国による基本指針の策定、市町村(特別区を含む。第十条第二項を除き、以下同じ。)による空家等対策計画の作成その他の空家等に関する施策を推進するために必要な事項を定めることにより、空家等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって公共の福祉の増進と地域の振興に寄与することを目的とする。空き家問題は、「適切な管理が行われていない空家等(管理不全空き家)」による「地域住民の生活環境に深刻な影響(近所迷惑)」であり、全ての空き家が空き家問題の原因となる訳ではありません。
適正管理 管理不全 近所迷惑でない 問題なし 空き家問題のおそれあり 近所迷惑 別の問題が生じている 空き家問題が生じている また、近所迷惑に対して「地域住民の生命、身体又は財産を保護」「その生活環境の保全」が具体的になすべきこと(空き家対策)であることも示されています。
ここで重要なのは、空き家対策は、「管理不全空き家のせいで地域住民が被っている迷惑状態を解消する」ことだ、ということです。地域住民不在の空き家対策はあり得ない
地域住民がどのような迷惑を被っているかは、地域住民に聞かないと分かりません。同様に、対策により迷惑が解消されたかも地域住民に聞かないと分かりません。
空き家対策は、地域住民が重要な役割を担います。所有者のみ・地域住民不在の空き家対策はあり得ません。ただし、京都市のような空き家の発生抑制を条例に定めている自治体は例外で、空き家になる前の状況で所有者にアプローチする空き家対策もあり得ます。
- 効果の出ない「空き家対策(?)」3つの典型
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所有者のみへのアプローチ
空き家対策は地域住民への近所迷惑であるにもかかわらず、地域住民を無視して所有者のみへアプローチする場合、空き家対策としての効果は見込めません。
そもそも、空家法の空き家対策とは異なるものと言ってよいでしょう。そして残念なことに全国の自治体の大半は、地域住民に向けた施策を行っていないどころか、相談窓口すら設けていません。
もとより、所有者への施策は「地域に迷惑をかけたら自治体が助けてくれる」といったモラルハザードに繋がるものであり、慎重でなければなりません。法律上の空家等のみへのアプローチ
空家法の「空家等」または条例が空家法の定義そのままの場合、使用しなくなって1年間以上経過してはじめて「空き家」となります。
この場合、近所迷惑が生じていても空き家ではないとして自治体が対策を取らないこととなります。条例で空き家の発生抑制を対象としておらず、空家法上の空家等に該当するまで1年間手つかずになることで、深刻化してからの対症療法を繰り返すのみとなってしまいます。
流通のみへのアプローチ
空き家問題(管理不全+近所迷惑)との関係において、流通は管理不全を解消する可能性の1つに過ぎません。
空き家問題の解消には、適正管理、所有者の使用など、より簡便で直截的な選択肢もあります。流通のみをもって空き家対策とするのは誤りです。加えて、流通を行っても新所有者が適正管理を行うとは限りません。
投機的不動産所有や外国人向け民泊など、空き家のままの方がまだマシだったという状況も現に起きています。 - なぜ京都市が空き家対策の最先端なのか
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空き家対策の最先端地域・京都市
京都市は、空家法制定以前より空き家対策条例があり、全国の最先端地域として我が国の空き家対策を牽引しています。
これは京都市の地理的社会的特徴から、一定の必然性があると考えられます。1.空き家が生じやすい
2.近所迷惑が生じやすい
3.空き家対策が行いやすい
4.施策が優れている京都市は「特殊過ぎて学べない」?
地理的社会的特徴が京都市を空き家対策の最先端地域の要因なのだから、特殊過ぎて学ぶことが難しい、と他自治体の職員から言われることがあります。
しかしながら、京都市の施策やノウハウは蓄積されており、他自治体は比較的容易にトレースすることが可能です。少なくとも、空き家対策に共通する課題や法令の運用、外部専門家の活用など、地理的社会的特徴とは関係ない「共有すべき先行事例」は数多く存在しています。
- 空き家が生じやすい環境
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空き家の直前は独居高齢者世帯
独居高齢者世帯の住人が、死亡、入院、施設入居、家族との同居などにより、建物に誰も住まなくなります。
すなわち、傾向として少子高齢化率が高い、合計特殊出生率が低い地域は空き家が生まれやすいということです。厚生労働省「平成20年~平成24年人口動態保健所・市区町村別統計」によると、京都市東山区の合計特殊出生率は0.77で、全国3,300超の区町村でワースト1です。同様に下京区(11位)、上京区(15位)、中京区(20位)もワーストランキング上位となっています。
京都市では中心部から郊外への人口流出「ドーナツ化現象」が顕著であり、世代交代により中心部が空き家だらけになってきているのです。二世帯が住めない、風呂もない
京都は歴史的な街並みが残っており、路地が多く古い家屋が未だ多く見られます。「うなぎの寝床」と呼ばれえう、路地に入り口が狭く奥に長い家が並んでいるのも京都の特徴です。
このうなぎの寝床は二世帯が住むには狭く、風呂もない構造であり、路地にある場合は、建築基準法で再建築ができないため、子世帯が独立や結婚を機に出て行ってしまい、親世帯が残ることになります。
不動産が観光地価格で子育て世帯が住めない
京都は言わずと知れた観光地であり、また、京都の中心部では観光地と住宅地が隣接しており、住宅地も観光地基準で地価が相応に高くなっています。所有者が必要以上に高く不動産価値をつける傾向もあるように思われます。
家賃や物件が高価なために子育て世帯の流入が極端に少なくなります。独立や結婚を機に出て行った子世帯も、既に新居を構えていたり子供を転校させたくない等の理由により、親が亡くなり空き家になっても戻ってこないことが大半です。
- 近所迷惑が生じやすい環境
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一軒の家の影響
空き家問題、すなわち近所迷惑は近隣住民が当事者になります。したがって、空き家がもたらす近所迷惑は、家と近隣住民の関係が密接であればあるほど起こりやすい傾向があります。
そのため、家同士がぴったり隣接して建っている(現在の建築基準法では許されていないため、古い街並みが残っていることとほぼ同義)、近隣間のコミュニティが色濃く残っているなどの場合に、空き家の地域住民に早く・強く影響を及ぼしていきます。
これらは京都の地域特性としてよく挙げられるものでもあります。
迷惑の種類との関係
空き家がもたらす典型的な問題として「防災や防犯における不安」「カビやネズミ、雑草などの発生」「植栽・屋根・壁等が近隣や通行者を侵害」「地域イメージの低下」「不動産の資産価値低下」があります。
密集市街地と呼ばれる災害対策上の問題地域では、防災や防犯については特に顕著な問題となります。
家が隣接している・長屋が多いなどの場合にはカビやネズミ等および植栽等の問題が顕在化しやすくなります。
観光地など地域ブランドを売りにしている場合、地域イメージや資産価値低下は問題となりやすいでしょう。これらもまた京都のことを説明しているかのように、ことごとく当てはまっています。
- 空き家対策が行いやすい環境
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活力ある地域コミュニティ
自治会や町内会、井戸端会議といった地域コミュニティによって近所迷惑が共通の問題として認識され、特定個人の被る迷惑を超えて空き家問題として認識されるに至ります。
同じ現象が起きていても、地域コミュニティの活力により空き家問題として認識され課題解決に乗り出すまでには大きな差が生じるのです。京都で空き家問題が早くから数多く認識されていたのは、空き家が発生しやすく、地域特性から迷惑を生みやすいだけでなく、地域コミュニティを通じて地域住民共通の問題となりやすいという要素もあったと言えます。
学問的アプローチ
空き家問題はそれぞれ実態が異なり、空き家対策もそれぞれ異なるものとなりますが、社会問題としての共通性や制度化における理論構築も必要になります。
空き家問題の黎明期には様々な立場から理論構築が試みられましたが、フィールドワークを伴う学者のアプローチが中立で最も説得力があるものでした。京都は数多くの大学を抱える学問の街であり、優秀な学者や学生が京都の事象や傾向などを適切に整理している状況も空き家対策実施の容易性にも繋がっています。
- 優れた行政施策とは
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空き家問題と正面から向き合う
京都市は、空家法制定前から独自に空き家対策条例を施行するなど、地域の課題としての空き家問題と向き合っています。
他の自治体とも共通する、空き家問題と正面から向き合った「優れた行政施策」の特徴は以下の4つです。
地域住民の通報・相談窓口がある
所有者の救済を行わない
流通を目的にしない
空き家の発生抑制も対象とするこれらを4つとも満たす行政施策は、京都市以外ではほぼ存在しません。
それどころか、空き家対策を名乗りながらどれ1つできていない自治体が大半という残念な状況です。外部専門家の活用による実現可能性
加えて、空き家問題・空き家対策においては以下により、行政だけでは構造的に解決が困難と言わざるをえません。
担当部署の知識・能力の偏り
民民の手続と密接
情報活用の限界
議員の関与そのため、外部専門家との協働が不可欠になるのですが、外部専門家(団体)も自らの利益追求を優先して結果的に上記行政施策の阻害要因となってしまっていることが多々見受けられます。
- 空き家対策の下準備
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地域住民が主体となる取り組み
空き家問題の当事者である地域住民が主体となって対策を行うことは、空き家所有者や迷惑を被っている住民への強いメッセージとなります。
そのため、地域の空き家対策チームとして「自治会長」「(空き家のある)町内会長」「自主防災会長」「民生委員会長」等、地域のリーダー・世話役・顔役の参加が極めて重要です。また、行政(市役所・区役所等)には早い時点から地域の名で相談し対策に向けた協力体制を築くことも欠かせません。
行政が調査名目(空家法9条参照)で空き家所有者と交渉等を行ってくれる場合もあります。まずは事実調査
事実調査は、「空き家(建物・所有者)に関する調査」と「問題(迷惑や被害)に関する調査」に大別できます。
基本となるのは聞き込み・ヒアリングですが、アンケート形式や臨時町内会総会の開催、視察(まちあるき)などによって実施するのもよいでしょう。不動産登記簿の取得や現場確認・写真撮影等も事実関係の把握に欠かせません。
一般的な確認事項としては以下のようなものがあります。近隣の方が所有者や管理者を知っている場合もありますので、全体としてこれらを確認したい旨開示して意見を求めるとよいでしょう。項目 確認事項 空き家所有者は誰か 登記簿を取得して所有者を確認 管理者はいるか 隣県の息子が月1で掃除しに来る、等 所有者・管理者の認識 所有者・仮者は管理不全、近所迷惑を認識しているか 所有者・管理者の希望 所有者・仮者は今後どうしたいか(管理・活用など) どのような迷惑が発生しているか 誰がどんな迷惑を被ったか(事実として発生したこと) どのような不安があるか 近隣住民が今後について抱える不安・心配 迷惑や不安が発生原因は何か 瓦が割れている、植栽が伸びている、等 現場の状況 原因や迷惑に関する写真を撮影 これまでの経緯 町内会長名で手紙を入れたが反応がない、等 聞き取りにおいては「事実」と「想像や要望」を明確に分けることに気をつけてください。
近隣住民は空き家問題の当事者(被害者)ですから、客観的な事実と想像や願望を混ぜこぜにして訴えかけてくることも少なくありません。
聞き取り側が注意深く情報を整理することが求められます。 - 対策チームの結成
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空き家問題の原因を見極め解消を目指す
自治会や町内会、井戸端会議といった地域コミュニティによって近所迷惑が共通の問題として認識され、特定個人の被る迷惑を超えて空き家問題として認識されるに至ります。
同じ現象が起きていても、地域コミュニティの活力により空き家問題として認識され課題解決に乗り出すまでには大きな差が生じるのです。京都で空き家問題が早くから数多く認識されていたのは、空き家が発生しやすく、地域特性から迷惑を生みやすいだけでなく、地域コミュニティを通じて地域住民共通の問題となりやすいという要素もあったと言えます。
対策チームに引き入れる機関・専門家
空き家対策は地域コミュニティのリーダーを中心に進めていくことになりますが、外部専門家等との協働もまた欠かせません。
一般に空き家関連の専門機関・専門家として数えられる下記のものにつき、当職の寸評を含めて紹介します。機関・専門家 活躍度 寸評 市役所・区役所(空き家対策) ○ 空き家の対策部署の協力は重要。 市役所・区役所(防災担当) ○ 空き家問題を防災の視点で解決するために心強い。 消防署 ○ 地域住民の信頼も厚く、防災の観点から協力必須 警察署 △ 民事不介入の原則から非協力的な傾向。協力できるなら是非。 建築士 ○ 知識・信用とも十分。地元の人材が望ましい。当たり外れあり。 弁護士 × 法的勝ち負けを決めたがりトラブルの元。いない方がいい。 司法書士 × 流通・活用が活躍の場。対策チームには不要。 行政書士 ○ 行政との連絡調整役。地元の人材が望ましい。当たり外れあり。 不動産事業者 △ 地域活動に理解あれば頼もしいが稀。地元に人材いれば。 大学教授・学生 △ 当たり外れが大きい。行政の紹介などで信頼できるなら。 対策チームのコアメンバーは、地域のリーダーに加え、市役所・区役所、消防署、建築士、行政書士になると思います。
法律系専門職の評価が分かれる理由
日本司法書士会連合会は空家等対策特措法を受けて空き家活用のみを内容とした冊子を作成しているように、空き家対策ではなく空き家活用が司法書士の活躍の場です。空き家対策においても、共有状態の空き家を単独所有に名義変更する場合等、登記申請が必要な場面では頼りになりますが、対策チームに引き入れる必要性はあまりないでしょう。
弁護士は資格上の職務領域は行政書士を完全にカバーしますが、両者の専門性及び法的立場の違いが決定的な差となります。
空き家対策においては、市役所・区役所・消防との協働が極めて重要です。弁護士と異なり行政書士は市役所・区役所・消防と日常的に業務を行っており、行政書士の専門領域と言えます。
また、子世代孫世代に至るまで隣家・近隣の関係が続くことが前提となる空き家対策においては、空き家所有者を法的に叩きのめすのではなく、調整とトラブル予防の視点が欠かせません。法的な制約により争い事に関与できない行政書士は調整やトラブル予防に特化しており、依頼者の利益を追求し紛争解決を旨とする弁護士より高い適性を有しています。 - 着地点と対策方針
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着地点は3+1段階
空き家対策の着地点はもちろん空き家問題の解消ですが、問題の解消にも段階があります。
1.現在の迷惑状態の解消
2.管理不全状態の解消
3.空き家の活用
4.空き家問題の発生自体を防ぐ1~3は現在の空き家問題への対策、4は将来の空き家問題への対策のため、1~3と4は別ルートとなります。
現在の空き家問題への対策の着地点としては、1~3の順に難易度は高くなり、
[1.現在の迷惑状態の解消]のみでも現在の迷惑状態は解消されますが、対症療法的になり再発のおそれが残った状態になります。
[2.管理不全状態の解消]では、管理不全状態の脱却により空き家が抱える近所迷惑の原因を除去したといえる状態です。
[3.空き家の活用]はプラスアルファとして、所有者・近隣住民いずれも納得する空き家の次の姿の実現まで持って行く形です。また、[4.空き家問題の発生自体を防ぐ]は今後地域の課題となり続けるため、(現在の問題とは関係なく)常に進めなければなりません。
対策方針は「協力」か「調整」か
空き家所有者が問題解消に協力的であるが、対応できない理由がある場合は、所有者との協力関係の中で適切な問題解消策を模索する方針になります。
他方、空き家所有者が状況を説明しても問題解決を拒否する場合は、所有者と近隣住民の互いの権利・利益を調整することが解決の方針となります。 - 現在の迷惑状態の解消
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可能な限り管理不全状態の解消とセット
「雨どいが壊れているなら直す」といった対症療法的な対応では迷惑状態に戻る可能性が残る上、管理不全を原因とする別の近所迷惑が生まれかねないと言えます。
もっとも、現在の迷惑状態を解消するところから始めなければ、何も進みません。
現在の迷惑状態の解消にとどまらず、管理不全状態の解消まで含めた対策を講じることが望ましいですが、まずは目の前の迷惑状態をクリアしましょう。法律問題ではなく事実問題として対策
法律論としては、近所迷惑状態の解消を空き家所有者に求めることは、人格権や物権に基づく妨害排除請求・妨害予防請求です。しかし、法律論を正面から振りかざして、「じゃあ裁判でも何でもしてくださいな!」と言わせてしまっては、問題は長期化し、地域コミュニティの問題の解決にならず、将来に禍根を残すだけです。
あくまで「雨どいが割れて隣家に雨水が流れ込んで困っているので何とかしてもらえないか」などといった事実問題として話を進めていくことが空き家対策では大切なになります。防災の視点からの空き家対策
空き家では、ネズミがケーブルをかじる等で漏電したりポストに詰め込まれたチラシに放火されたりといった可能性が高まるだけでなく、居住者がいないため、ぼやが起きた際の初期消火に遅れが生じるなど、火災の温床となると考えられています。
また、空き家は居住者がいないため建物の傷みが早く、地震時の倒壊の恐れも高まります。倒壊に至らない場合でも落下物の危険が生じることで、近隣住民の避難路をふさいでしまうことが考えられます。空き家の防災上のリスクは「見えないもの」「現実化していないもの」ではありません。人命に関わる現在の迷惑状態だと理解すべきです。
- 管理不全状態の解消
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管理不全状態の解消が空き家対策の本丸
空き家問題は管理不全状態が解消されれば解決です。
流通や活用はプラスアルファに過ぎません。近所迷惑の根本原因である管理不全状態が解消され、「継続的に管理」される状態を目指してください。「管理不全状態が解消」の具体例
実例として管理不全状態が解消したと近隣住民が理解したのは、以下のような場合です。
所有者・親族等が月2回以上管理に来る
人が住む(貸す・売る)
管理会社等に管理を委託する
町内会管理など地域の管理にする
建物を除却して更地にする
- 典型的な管理不全解消の課題例
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所有者が誰か分からない
登記簿上の所有者が既に亡くなっていたり、住所地に連絡をしても宛先不明になっていたりで、所有者を見つけ出すのに苦労することもあります。
複数の相続人の共有状態になっていることもよくあります。行政による公用請求での情報利用(空家等対策特措法10条)が可能ならそれで、そうでなければ行政書士による相続人調査、遺産分割協議書作成などで空き家の権利関係を明確にしましょう。
所有者が不信感を持っている
元々近隣関係が円満でなかった場合などには、不信感が先に立ってまともに話を聞いてくれない所有者もいます。
行政や地域のリーダーなどによる粘り強い説明や説得を続けるしかありません。また、いったん人に貸すと二度と帰ってこないと考えている所有者も多く、定期借家契約を含めた様々な選択肢を提供できるよう、幅広い知識と対応能力、中立的な姿勢で臨まなくてはなりません。
費用負担が大きい
建物の改修の必要がある場合などは費用負担が大きくなるため、金銭的な理由も多く聞かれます。
空き家対策として行政の補助金がある場合や、建築士会などの団体が建物診断サービスを安価に提供しているなど、少ない費用負担で対策できる情報を提示できるよう準備しておきましょう。
また、昨今では「DIY賃貸」と呼ばれる借り手が改修等を行う賃貸契約の形も浸透してきています。 - 空き家対策としての活用
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単なる空き家活用との決定的な違い
空き家対策としての空き家活用は、迷惑状態(管理不全)の解消の手段として「第三者による活用」を行うものです。
そのため、地域住民にとって望ましい使用者・用途であることが前提条件となります。効果の出ない「空き家対策(?)」の典型の1つである流通・活用は、活用(どころか流通そのもの)が目的になっています。
不特定多数人への流通・活用は、地域住民にとって「近所迷惑をかけない新しい使用者が現れることを願うギャンブル」でしかなく、空き家対策と呼べるものではありません。不動産事業者は空き家対策に貢献できないのか
不動産事業者が空き家対策に貢献できるのは、近隣住民の活用の方向性や要望を反映する場合に限られます。
実際には売り手でも買い手でもない第三者の地域住民の意向が反映する不動産事業者は極めて稀であり、転じて、空き家対策に貢献できる不動産事業者も極めて稀です。京都の「民泊問題」に代表されるような、空き家よりも近所迷惑な施設に変わってしまう可能性があるのも空き家活用の危険性のひとつです。
民泊問題の場合は、許可取得手続に関わる行政書士にも責任の一端がありますので、大いに反省しなければなりません。 - 地域の未来を見据えた空き家対策
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子世代・孫世代のためのまちづくり
空き家問題は現在の問題ですが、空き家対策は将来の子世代・孫世代が安心して暮らせる地域づくりという側面もあります。
子や孫が近所迷惑に苦しまないよう、近所迷惑をしないよう、今、解決しておかなくてはならないのです。
空き家問題を通じて地域住民ひとりひとりが将来どんな地域でありたいのかを考え、そのための一歩として「自分たちの地域を良くするための活動」として取り組むことが必要です。空き家所有者を叩きのめしてはならない
空き家所有者もまた地域の人間です。今は空き家にしていても、いつか住むかも知れません。所有者の子世帯が住むかも知れません。隣近所の関係はずっと続きます。
空き家問題は地域コミュニティ内部の問題ですので、法的な正当性で理論武装して空き家所有者をコテンパンに叩きのめすようなことは求められていません。
外部の支援者が焚きつけて地域の人間同士をケンカさせることなど断じてあってはならないのです。 - 空き家問題の発生自体を防ぐ
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増え続ける空き家
総務省の「住宅・土地統計調査」上、空き家は対策される数より新たに増える数の方が多いのが実情です。
そのため、空き家の発生抑制・発生予防が進まなければ、空き家問題全体を改善の方向に向けることはできません。
したがって、空き家の発生抑制・発生予防なしに、地域で増え続ける空き家と空き家問題に対して「いわゆる対症療法」を続けていくことしかできないことを意味します。法令・行政との関係
空家法(及び国交省・総務省「基本方針」)における「空家」とは、1年以上居住実態のない建物です。
条例等で空き家の発生抑制を対象としていない限り、建物に人が住まなくなってから1年以上の間は行政にとって「空き家」にあたらないため、空き家の発生抑制は「空き家」になる前の時点であり、行政施策の対象外であることから、所有者や地域が自ら対策しなければなりません。高齢者福祉との関係
空き家が発生する直前の状態は、多くの場合、高齢者の独居世帯です。独居の高齢者が死亡・入院・施設入居などにより空き家となっていくのです。
空き家の発生を予防するには、当然空き家になる前に何らかの対策が必要になり、独居高齢者へのアプローチとなります。 - 家の終活
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空き家の発生抑制は終活の一部
空き家の発生抑制・発生予防は「家が空き家になる前(≒独居高齢者世帯)においてなされなければなりません。
一般に、この時期に行う「もしものときの財産処分の決定」は財産管理」「成年後見」「遺言」等(本稿ではまとめて「終活」といいます。)です。所有者が心身ともに健康なうち(死亡・認知症の診断・入院・施設入居の前)に「家をどうするかを含めた「終活」をキッチリ行うことがほぼ唯一の対策となります。
法律様式が必要なものとそうでないもの
終活一般に共通する事項として法律の様式に沿っていないと無効なものがあります。「財産管理」「成年後見」「遺言」などがその典型例です。
それら法律様式が必要なものは、行政書士などに相談の上で最終的に落とし込むのがよいでしょう。
もちろん、先に「(家を含む)財産などをどうしたいか」を決めておくことが重要です。住むことを前提に考える
広く知られているとおり、家は住まないとすぐ傷むものです。
住んでいない家を管理のみで維持する場合、少なくとも2週間に1回以上換気や掃除などのメンテナンスを行わないといけないと言われています。これはかなり重い負担です。管理不全を防ぐためには必ずしも住む必要はありませんが、住むことが管理と建物の維持を同時に実現する最良の手段となることが大半です。
終活においても、家は住むことを前提に、誰が住むかを考え、もし誰も住まないなら賃貸や売却を検討すべきです。 - 隣地空き家から越境した植栽を切る
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令和5年民法改正で切除可能に
多くの地域で空き家に関する相談内容として植栽の越境が圧倒的第1位ですので、この民法改正は空き家問題の自律的解決に大きく影響します。
民法233条
土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。あくまで原則は所有者による切除(第1項)であって、自ら切除できるのは例外(第3項)となります。
法は行政書士への依頼を予定
空き家の植栽が越境してきている場合、隣地所有者が誰(どこに住んでいるか)が分からないことも多いでしょう。
越境する枝を自ら切るためには、登記簿・住民票・戸籍等で調査をしなければなりませんが、普通の人は隣人の住民票や戸籍等を取得することはできません。
この場合、取得可能なのは行政書士と弁護士のみであり、事実上、行政書士に依頼することを予定した規定になっています。